集団を構成する全員が賜生を自覚して,集団と他者への奉仕を使命として人生を生きるのであれば,「悪」とか「我欲」とかいう行為は少なくなると思いますが,現実は悪と呼ぶべき行為が跋扈し,我欲のために人生の総決算である臨終を悲惨なものにしてしまうことは,世の中で普通にみられることです。
ではどうして,社会に悪が跋扈し,人に我欲が有るのか!
ヒトは躾で人になり礼を身に付けることによって集団で生きる摩擦を少なくし,志を持つことによって社会の中で分としての奉仕を果たすことができるようになります。
しかし,ヒトは躾によって人になってもなお動物の本性を持ち,躾も礼も身に付けなければ野生動物のままです。その動物には他を食い殺してでも生き残ろうとする生命保持の本能があり,この本能は自らが生き残るためには他を傷つけることも躊躇しない性質を持つと考えられます。
すなわち,悪とは,自らが生き残るためには他をも犠牲にするという動物的本能を根源とし,我欲もその根源の本能から生じるのだとすれば,悪と我欲の存在を否定することはできないのです。
一方で,動物は,種を維持し子孫を次の世代に残すために子を育て慈しむという本能を有しますが,この子を育て慈しむという動物的本能が善の根源だと考えられるのです。
平成29年10月31日
塾長 倉田榮喜