講座Ⅳ 人生と生き方

1 命の時間

命の時間は,皆さんが誕生から臨終までに持っている時間です。人は,誰でも誕生から死までの間の二度とない人生を生きるのですが,命の時間が何時尽きるかはわからず一瞬先に災害や事故に遭って命を落とすことも否定できず,命の時間が何時尽きるかわからない人生を,四苦八苦という苦楽と共に一瞬一瞬の後戻りできない命の時間を使いながら臨終の時を迎えます。

皆さんは,自分が誕生する境遇を選ぶことは出来ませんが,どのように生き,どのような臨終を迎えるかは選ぶことができますので,二度とない人生の臨終の様相は皆さんの命の時間の使い方如何に係っています。皆さんには,命の時間を臨終の時に悔いが残らないように使うという使命があり,自分の使命を見つけてその使命を果たすという覚悟を持って自分の人生と対峙して欲しいと思います。

自分の使命を見つける為には,自分の「自」と何か,自分の「分」とは何かを問いながら自律に基づいた研鑽と鍛錬が必要になります。皆さんには,自分の使命を見つける為の研鑽と鍛錬を継続して①知性②感性➂個性を磨き,自身に備わる①欲得②憤怒➂羨嫉をコントロールできる生き方を追及して欲しいと思います。兀座・立腰・丹田を心身の所作として身に付け,人生の師と友を見つけるように努めながら,志を実現するとの強い思いを心肝に刻みつけて具体的な行程を作り,自分の臨終の様相もカラーで描いてみてください。そして,人生の生き方として誠実・勤勉・分度・推譲という二宮尊徳翁の訓えを学んで欲しいと願っています。

2 家族

家族は,血と縁の絆で結ばれた無償の慈愛で支え合う集まりで,家族が住む家は,皆さんの命を慈しみ育て力を蓄える処です。皆さんが志と使命を実現する為には必ず他者の援助と協力が必要になります。一人で出来ることは限られますし,一人では命を次に繋ぐことはできません。

人が二足で立ち上がって歩きだしたのは,①重い頭脳を支える為②獲物や敵を草原で見つける為➂獲物を獲り食糧を家族に運ぶ為等幾つかの説明がされますが,自然の中で家族が協力して獲物を取り食べ物は分け合って次世代に命を繋いできたことで人類の現在があります。皆さんが誕生から修練の期間を終えて社会に巣立つまで,親は,可能な限りの慈愛と食・衣・住の全てを無償で与え,社会に出た後の人生でも変わることがない支援者で,家族は,自然災害や人生の危機を助け合って乗り越える存在です。

祖父母から受け継いだ皆さんの命は,使命と共に宿業も抱えており,皆さんが人生で使命を果たすよう務めることは,皆さんの命に宿る業を転換し軽減することです。祖父母に対する「孝」は,根源の命に繋がる倫理価値であり,兄弟姉妹に対する「信」は,家族が相互に助け合うために不可欠な家族の絆の証です。

一方,親が慈愛と保護を放棄していることが明瞭である場合は,速やかにその下を離れて社会の保護を求めるか巣立ちの時期を早めるようにしてください。そして,慈愛と保護を放棄した親であっても,親が皆さんの命の源であることは変わりませんので,可能な範囲で孝の誠を尽くすことはなお必要です。

3 社会

社会は,皆さんが人生で使命を果たすことが求められる場所です。高校生になるまでの間,躾も受けず苦労もせず不自由なく育ってきた場合,社会で使命を果たす為には苦難や危機にも負けないように自分を鍛錬する意識を持つことが必要です。社会に出た後,幾度となく繰り返す失敗や挫折にも負ない折れない心身を持たなければならず,その為に人生の師と友を持つことが大切ですが,そのような師や友が皆さんの身近に見つけることが出来なければ,歴史上の人物や書物の中から自分が尊敬し納得できる人物を選びだして,その人物の生き方を真似ることが良いと思います。

社会は,欲得・憤怒・羨嫉の集団でもありますので,皆さんがそのような集団の中で自分の使命を果たそうとするときは,誹謗中傷は当然の事として,どのような凶事や危機や難事も乗り越えるべき試練と受け止める覚悟と前へと進む決意を持ってください。二宮尊徳翁は,①誠心を以て本となす②勤労を以て主となす➂分度を以て体となす➃推譲を以て用となすと訓えられています。皆さんが人生の家を築くときには,勤勉・勤労を基礎と土台,誠実・正直を骨格,分度と節約を内規,推譲と奉仕を行動規範とし,家では家族を守り,外では社会と他者への奉仕が基本となるように命の時間を使って欲しいと願っています。

人生に起こる禍福吉凶は偶然ではなく必然と捉え報恩と感謝の念を失念することなく,発生した出来事の全てを次の布石として受け入れ,志の実現に向かって倦まず絶えまず明日へ向かっての一歩を積み重ねて欲しいと思います。使命と志を実現して悔いなき臨終を迎えることができるように,皆さんは,二度とない人生の今日の命の時間を無駄なく燃焼させて欲しいと思います。

令和2年10月15日

塾長 倉田榮喜