講座Ⅴ 自尊と他尊

1 自尊

貴方の命は,世界に一つだけの個性を持っている命です。貴方の命は,根源の命と共に過去の時間と習性とが含まれるだけでなく他の命が持っていない特有の個性を有し,その特有の個性は未来への無限の可能性を備えている個性です。

自尊とは,世界に一つだけの個性を貴方自身が尊重して生きることで,それは,誕生から臨終までの貴方の命の時間を個性に賦与された使命を追及し達成する為に使うことです。動物の本能は自然環境で生きる為に存在し,動物である人は,生きる為の本能を元とする性欲・物欲・存在欲(競争欲と名誉欲)の三欲を持ち,三欲には嫉妬心と猜疑心があります。

「自」は貴方の個性で,「個」には習性や宿業と共に使命を果たす素質が賦与され,「性」には欲と理が備わっています。貴方が賦与された素質を使命の為に使うときは,個性が持つ宿業や三欲と対峙しながら使うことになります。そこで,貴方が宿業や三欲に負けずに自身の使命を達成するには,「自律修身」が必要で戎・定・慧の修練を重ね,仁・義・礼・智の四端を身につけるよう努める日々が必要となります。貴方には,自身の個性は例外のない「真」であって「偽」ではないことを確信し,自身の使命を達成する為に命の時間を使うように務めて欲しいと思います。

2 他尊

貴方の命は唯我独尊ですが,生物の全ては唯我独尊であり,山川草木悉皆成仏とすれば世界の全ての命は他尊の対象です。貴方だけが世界で独尊なのではなく,全ての命が桜梅桃李のごとく個性に応じて独尊なのですから,他者を侮ったり,目線を高くした態度や物言いだったり,能力や地位を比較したりしないことを胆に銘じる必要があります。日本は,中華文明の模倣から西洋文明の信奉者になるという歴史を有し,国民の大多数はその度毎に尊敬と侮蔑の目線を繰り返し,自分が何者であるかを求めた人は少ないのです。

使命を達成する為には,桜梅桃李に応じた他者の支えが不可欠ですが,他尊とは,他者が自分の使命に必要だから尊いのではなく,存在自体が尊いのだと解る必要があります。自尊が縦軸の血脈と伝統を元とするのに対し,他尊は横軸の空間と集団を本にするものですが,使命を追及する処は横軸の空間に在る共生の自然則の中にあります。貴方が個性に含まれる使命を有するのと同じく,他者も使命を達成する為に個性の役割を果たそうとしています。

他尊は,「命を傷つけない」という「善」の実践に繋がる行為であって,個性(自)に応じた役割(分)という共生を尊認する行為です。貴方が何者であるかを知る為の自尊と他者の役割に対する尊認は,共生に必要欠くべからざる行為です。

生命の全てが自己の我執を克服して,自尊の「真」と他尊の「善」とが調和する状態は誰もが感銘する「美」の世界になると思いますが,貴方は,そのような調和の世界の出現は不可能だと思いますか。そのような調和の世界を求めて自分の分を果たせるよう務めたいと思います。

令和2年11月15日

塾長 倉田榮喜